人手不足、EC市場の拡張、消費者ニーズの細分化が同時並行で進行する昨今、これまでの経験頼みで属人化した在庫管理は通用しなくなりつつあり、過剰在庫や欠品に頭を抱える企業が後を絶ちません。打開策として注目を集めているのがAIによる在庫管理であり、国内の大手企業を中心に活用の輪が広がるとともに、具体的な数値成果も続々と表に出てきている状況です。
本記事では、国内大手5社のAI在庫管理事例と、そこから読み取れる成功のポイントを整理して解説します。自社の在庫管理にAIを取り入れたい物流・倉庫・調達担当者の参考にしてください。
在庫管理におけるAI活用の国内事例5選
国内では、業界・業種を問わず多様な企業がAIによる在庫管理に取り組んでおり、具体的な成果数値も次々と公表されています。ここでは、代表的な5つの取り組みを紹介します。
- 事例① トライアル:264店舗へのAI自動発注導入で在庫を20%圧縮、補充業務も10%軽量化
- 事例② ニチレイ・アイス:生産・輸送・在庫の3計画立案を約70%スピードアップ
- 事例③ ヤマエ久野:AIによる需要予測自動発注で発注作業時間が半減
- 事例④ ファーストリテイリング:RFIDとAIの組み合わせで全商品の在庫を可視化
- 事例⑤ アスクル:AI需要予測モデルにより横持ち指示の工数を約4分の1に圧縮
事例①:トライアル|264店舗へのAI自動発注導入で在庫を20%圧縮、補充業務も10%軽量化
トライアルカンパニーが2026年2月に公表した取り組みでは、AIとデジタルツインを組み合わせた発注最適化サービス「CIX-自動発注」が、スーパーセンターを中心とした264店舗で本格稼働に至っています。背景には、店舗スタッフの経験値に左右されがちな発注業務の属人化、それに伴う作業負荷の増大と過剰在庫の発生という長年の課題がありました。
導入の効果について、代表取締役社長の石橋亮太氏は「データと最適化エンジンを高度に連携させることで、店舗スタッフの補充業務を約10%軽減し、同時に在庫を20%削減できるという確かな成果が実証された」とコメントを残しています。注目すべきは、発注を自動化するだけでなく、棚割と売場の状況から棚に収まる適正量をリアルタイムで算出し、補充作業やバックヤード在庫まで踏み込んで圧縮する設計思想です。
さらに、複数の発注をまとめて納品回数自体を最適化することで、入荷時の受け入れ作業も効率化されています。2025年9月から段階的に展開を進め、グロサリーや菓子、日配品、生活消耗品など合計およそ28,000SKUがAIの管理下に入りました。
出典:トライアル、スーパーセンターへのAI発注最適化ソリューション「CIX-自動発注」導入完了|トライアルホールディングス
事例②:ニチレイ・アイス|生産・輸送・在庫の3計画立案を約70%スピードアップ
製氷事業を担うニチレイフーズグループのニチレイ・アイスは、日立製作所と共同で開発した計画立案AIシステムを2025年10月に本稼働させました。同社が扱う包装氷は夏場に需要が集中する季節商材であり、繁忙期の生産・輸送・在庫の最適配分を、これまでは熟練担当者の判断に委ねざるを得ない状況が続いていたのが従来の運用です。
新たに導入されたAIシステムは、日立の数理最適化エンジン「計画系業務最適化サービス」を土台にしており、生産能力をはじめとする40超の制約条件と、相反関係にある約10個のKPIを同時に勘案します。約50品目を対象に、生産・輸送・在庫の計画パターンは合計約200万通りにのぼりますが、AIがそのなかから最適解を自動抽出することで、計画立案に要する時間が約70%短縮されたと報告されています。
加えて、入力データを変更するだけで計画を即座に作り直せる柔軟性も備えており、需給の急変にも素早く追随できる仕組みが整いました。熟練者依存からの脱却と従業員の負荷低減を同時に実現した点が、本事例の大きな価値だといえます。
出典:製氷事業を展開するニチレイ・アイス 生産・輸送・在庫計画の立案業務をAIシステム開発により自動化|ニチレイフーズ
事例③:ヤマエ久野|AIによる需要予測自動発注で発注作業時間が半減
九州を地盤に食品や酒類の卸売を展開するヤマエ久野は、日立製作所との協創を通じて、汎用倉庫の食品カテゴリーを対象としたAI需要予測自動発注システムを2024年4月から運用しています。汎用倉庫は取扱商品が多岐にわたり需要予測の難度が高いため、システム化しても効果が出にくい領域とされてきたのが業界の通説でした。
ヤマエ久野はこの壁を、特定取引先の急な受注増を検知して過学習を抑える「スポット特売機能」の実装によって乗り越えています。稼働開始から2カ月の時点で、複数の熟練担当者が1日3時間ほどかけていた発注業務が約1時間半まで圧縮され、おおよそ半分の時間削減を達成したと公表されています。
さらに、倉庫の規模や取扱アイテム数に応じて最低在庫や発注頻度を自動調整する「自動チューニング機能」によって、特性の異なる4拠点への横展開も成立しました。同社は今後、仕入先からの入荷回数や仕入数のコントロールを通じて、倉庫内作業そのものの効率化にも踏み込む計画を示しています。
出典:ヤマエ久野と日立が協創、AI需要予測自動発注で作業時間を大幅短縮|日立製作所
事例④:ファーストリテイリング|RFIDとAIの組み合わせで全商品の在庫を可視化
ファーストリテイリングは2018年春夏シーズンから、ユニクロ・ジーユー・セオリーを含むグループ全ブランドの商品にRFIDタグを取り付ける取り組みを開始しました。年間13億着という生産規模を抱える同社にとって、「どの商品がどこにいくつあるか」を常時把握できる状態こそが、サプライチェーン全体を最適化するための出発点だったといえます。
RFIDで収集された在庫データはAIへとつながり、需要予測や商品企画の精度向上に役立てられているほか、生産・物流・販売の各領域でSKU管理を完全に連動させる仕組みの基盤になっています。従来は人海戦術で対応していた在庫照合がRFIDの一括読み取りで瞬時に完了するようになり、作業時間とヒューマンエラーの大幅な削減、ひいては販売機会ロスの撲滅と売上拡大にも貢献している取り組みです。
物流面でも、マテハン機器大手のダイフクと戦略的グローバルパートナーシップを結び、有明倉庫を起点に国内拠点の自動化を順次推進中です。RFID・AI・マテハン機器という3つの要素を組み合わせることで、過剰在庫と欠品をともになくす戦略を描いています。
出典:ファーストリテイリング 2018年8月期 決算説明資料|ファーストリテイリング
事例⑤:アスクル|AI需要予測モデルにより横持ち指示の工数を約4分の1に圧縮
アスクルは、物流センターと補充倉庫の間でおこなう商品在庫の移動、いわゆる横持ちの計画立案にAI需要予測モデルを自社開発し、全国の物流拠点への展開を進めています。これまでは担当者が経験と勘で計画を組んでおり、人によって精度にばらつきが出るうえ、緊急の横持ち輸送が頻繁に発生していたのが課題でした。
新たなAIモデルは「いつ・どこからどこへ・何を・いくつ運ぶか」を自動で指示できるようにしたもので、ALP横浜センターでは横持ち指示作成工数が1日あたり約75%削減されたと報告されています。入出荷作業の工数も約30%/日、フォークリフトの稼働も約15%/日と、関連業務全体にわたって削減効果が広がっています。
加えて、賞味期限や使用期限を抱える「期限管理品」を補充倉庫側で適切に管理できるようになったことで、センター内の無駄な商品移動も大きく減っています。商品ラインナップの拡大や担当者の入れ替わりが生じても、AI主導のデータドリブンな運用によって安定したサービス品質を維持できる体制が整いました。
出典:物流センターと補充倉庫間の商品横持ち計画にAI需要予測モデルを活用|ASKUL Transformation with Digital
事例から読み解くAI在庫管理 成功のポイント
ここまで紹介した5つの事例には、AI導入を成果へと結びつけるための共通する要素が潜んでいます。技術の選び方そのものよりも、課題設定の精度・データの整備・展開のスピード感という3つの要素が、いずれの企業でも成果を生み出す土台になっている点が特徴です。ここでは、自社で在庫管理にAIを取り入れる際に意識しておきたい3つのポイントを取り上げます。
- 解決すべき課題とKPIを先に明確化する
- データ整備と既存システムとの連携設計を並行で進める
- スモールスタートで現場の定着を確認しながら段階展開する
解決すべき課題とKPIを先に明確化する
AI導入で結果を出した企業に共通するのは、「何のためにAIを使うのか」が組織として腹落ちしている点です。トライアルは発注業務の属人化と過剰在庫、ヤマエ久野は汎用倉庫における熟練担当者依存の発注、アスクルは横持ち計画の属人化と緊急輸送の頻発というように、いずれも具体的な痛みを起点にAI活用へと舵を切っています。
課題のピントがぼやけたままAIを入れてしまうと、適用範囲が広がりすぎたり狭まりすぎたりするうえに、効果測定もままならず、投資対効果の判断にも至りません。そのため、欠品率の削減、発注工数の短縮、横持ち工数の縮小など、解決したい課題を絞り込み、成果を数字で追えるKPIを事前に設定する作業が欠かせない工程です。
KPIを定めておくことは、導入後に改善サイクルを回すうえでも重要な意味をもちます。効果を数値で可視化できれば、横展開や追加投資といった次の意思決定を、根拠を伴ったかたちで進められるようになります。
データ整備と既存システムとの連携設計を並行で進める
AIの予測精度は、学習に使うデータの質と量に直結しています。ニチレイ・アイスの取り組みでは、約50品目をめぐる約200万通りの組み合わせからAIが最適解を選び出していますが、これは生産能力・倉庫容量・輸送手段といったデータが事前に整っているからこそ成り立っている成果だといえます。
そのうえ、AIは単体で機能を完結させる仕組みではなく、WMSや基幹システム、マテハン機器など既存システムと組み合わさってはじめて効果を発揮するツールです。連携設計を後手に回してしまうと、AIの算出結果を現場へ反映するための追加工数が発生し、せっかくの自動化効果が半減してしまうリスクをはらんでいます。
ファーストリテイリングの事例でも、RFIDで取得した在庫情報をAIによる需要予測やマテハン機器の制御と紐づけることで、サプライチェーン全領域での最適化が実現されています。データ整備と既存システム連携の検討は、AI導入の構想段階から同時並行で動かしていくのが理想形です。
COOOLa WESを活用すれば、需要予測や自動発注の結果をWMS・AGV・AMRなどの実作業へ直接連携し、在庫判断から庫内オペレーションまで一体で最適化できます。
スモールスタートで現場の定着を確認しながら段階展開する
AI導入では、全業務に一斉適用するのではなく、影響範囲を絞った小規模な検証から踏み出すことが鍵となります。トライアルは一部店舗での実証を経て264店舗への全店展開へ、ヤマエ久野は4拠点へと段階的に拡張、アスクルも1センターでの実証を起点に全国展開へと進めており、いずれも段階アプローチで成果を積み上げてきた共通点があります。
小さく始めて得られた現場の知見は、本格展開時の運用ルール作成やAIモデルのチューニングに活かすことができ、全体導入におけるリスクを大幅に和らげる効果が見込めます。特定の拠点や工程、商品カテゴリに対象を絞ってAIの精度と現場の習熟度を見極めたのち、段階的に対象を広げていく進め方が、成功確率を着実に押し上げます。
また、現場スタッフへの研修や運用マニュアルの整備も、AI導入と歩調を合わせて進めることが欠かせません。AIが導き出す提案を、現場の人が正しく読み解いて活用できる体制が整ったときに、ようやく導入効果は最大化に向かいます。
庫内設備・マテハン機器と連動したAI在庫管理なら「COOOLa WES」
倉庫運用管理システム「COOOLa WES」は、ロボットや自動搬送機といったマテハン機器とWMSを切れ目なく連携させ、庫内の在庫管理と作業自動化を一体で動かす物流システムです。AI需要予測や自動発注のアウトプットを現場マテハン機器の動きと直接つなぐことで、データに根ざした在庫管理を倉庫オペレーション全体へと広げていけます。
ファーストリテイリングの事例にも表れているように、RFIDやAIで集めた在庫情報は、マテハン機器の制御と組み合わさってはじめて、現場の業務効率という具体的な成果に変換されていきます。
WES・WMSをワンストップで提供するブライセンは、WMSのご契約社数700社超のノウハウをベースに、AI在庫管理の検討段階から倉庫自動化・ロボット導入の構想段階まで、幅広くサポートが可能です。
お客様の倉庫運用に合わせて柔軟にカスタマイズしたWES/WMS/マテハン連携を、ワンストップでご提供します。
まとめ
AIを活用した在庫管理は、トライアル・ニチレイ・アイス・ヤマエ久野・ファーストリテイリング・アスクルといった国内大手の事例が示すとおり、在庫削減や業務時間短縮といった目に見える成果に直結する取り組みです。各社に共通しているのは、これまで経験と勘に頼っていた判断をデータへと置き換え、人とシステムそれぞれの役回りを定義し直していくアプローチだといえます。
成果を引き出すためには、解決したい課題とKPIをまず明確化し、データ整備と既存システム連携を並走させながら、スモールスタートで現場の定着を確認していく段階的な進め方を意識しましょう。
AI技術と倉庫の自動化が掛け合わさるほど、在庫管理の精度と効率はこれからさらに磨かれていくはずです。







